遠野往路の車窓
新幹線を乗降する大きな建物とは裏腹に、釜石線の乗り場は駅前の階段のアップダウンを通過しなければならない。大荷物の私はエレベーターはおろかエスカレーターもない、暗いアップダウンは体力勝負で、少々苦労した。やはり「余裕を持って早めに」という旅の自己ルールは必須だな。
でも、その通路は銀河鉄道仕様の壁画だ! コバルトブルー地に影絵のような風景がノスタルジックだ。
天井にも抜かり無く星座が描かれていた。
余裕でホームに立つ。一見さびれた叢(くさむら)なのだが、意外にも乗客は狭いホームにいっぱい。
私を含め、「はまゆり3号」という快速電車を待つ人々だ。この電車には、快速だけど指定席がある。通学の学生が、もしかしてテスト期間で早めに下校があるという可能性も考え、私には珍しく指定を取った。320円なら散財しても保険に入っておこうと思ったのだ(笑)
駅の表側は整備された公園のように美しかったが、釜石線のホームからは、こんな風景が見えるのだ。ローカル線駅の旅情満喫だ。
釜石線の愛称は、「銀河ドリームライン釜石線」というらしい。釜石線の前身が「岩手軽便鉄道」で、ご存知のように「岩手軽便鉄道」は「銀河鉄道の夜」のモデルとなっているからだ。
そのため各駅の駅名看板には、賢治が作品で使ったエスペラント語の駅名愛称も記載されている。新花巻駅では「ステラーロ(星座)」。看板の模様も星座だ。だから通路の天井に星座が描かれていたのかも。
この風景をバックに携帯をするサラリーマン風の男性ってミスマッチすぎて、いっそメルヘンだ。
いよいよ電車に乗り込み、新幹線ではオール自由席だったので、この旅初の指定席に座る。日差しはあついくらいで、前の席の女性はカーテンをしっかり引いてらした。
私は日差しを浴びながらも、車窓風景は見なくてはね!
滋賀県と遜色ない田園風景ではあるんだけど(笑) さざ波のような雲がヴェールのようにちぎれ雲にかかっている。
その下は、段々畑、防風林、すすき。
土沢駅に到着。ここはブリーラ・リヴェーロ・「光る川」という愛称だ。
「銀河鉄道の夜」では始発駅となっているそうだ。ちなみに終着駅は「花巻駅」。
一束ずつを干した稲藁の群れ。
反対側の車窓には、山から大きな雲が出現。
こちらは綺麗なハサ掛け。丁寧な手仕事だ。
信楽高原鉄道にように山間部の樹々を抜けて、
少し人の気配のある場所を通り過ぎ、
またもや雑木林を通過し、
田園地帯へ、の繰り返し。でも見飽きない。そっけない新興住宅地も、巨大商業施設もない、いさぎよい田舎の風景だ。
宮守駅に到着する。銀河鉄道の信号機がかわいい。
たったこれだけで、幻想的なメルヘンだ。宮沢賢治のイメージ喚起力、恐るべし!
宮守駅の愛称は、「ガラクシーア・カーヨ(銀河のプラットホーム)」。快速が停車する駅だし壮大な愛称だが、無人駅らしい。
刈り入れが済んだばかりの田んぼ、これからの田んぼ、とうに終わって「ひこばえ」の生えている田んぼ。たぶん人手が足りないのだろう、機械で一気に、というわけには行かない農地らしい。
川を渡るたびに、「軽便鉄道」のときの鉄橋が残っていて車窓から一瞬だけみえますよと、さっきのタクシー運転手さんに聞いていたのできょろきょろするけど、やはりわからずじまい。
大きなあぜ道のある田んぼ。
山、雲、田んぼという不動の風景三大要素。山に落ちる雲の影が、ダイナミック!
反対側も同じ。田んぼの中を走っている3両の列車は、外側から見たら、まるで近江鉄道のガチャコンみたいなのだろう。
そういえば、平地は近江鉄道の車窓風景とほぼ一緒だもんね。山間部は信楽高原鉄道だし。
遠野に近づいて来ました。
この川の上流には、カッパがいるのでしょうか!?
そういえば今回は通らないけど、「遠野」の次の駅「青笹駅」の愛称は「カパーオ(カッパ)」というらしい。
さすがは観光地、乗客がぞろぞろ下車しました。遠野の愛称は「フォルクローロ(民話)」だ。
おっ、一人旅で鉄道好きらしい同類発見。若い頃の私か?(笑)
この駅にはやはりエレベーターもエスカレーターもないので、先に線路を渡る高架の下り階段を降りていたお年寄りグループのひとりが、キャリーバッグの重みに引っぱられて、階段を落ちてしまわれていた。幸い大事には至らなかったようだが、私も気をつけねば(体力は60代なので・汗)
改札はこんな感じ。駅員さんがキップを拝見しま〜す。歓迎のことばは「よーぐおでんしたなす 民話のふるさと遠野さ」(「よくお越し下さいました、民話のふるさと遠野へ」)
この線路の終着駅は釜石だ。ここからさらに1時間。釜石線、南リアス線、山田線3駅の終着駅になる。愛称は「ラ・オツェアーノ(大洋)」だ。