ラベンダー
以前H氏がどこからかもらってきてくれたラベンダーが、どんどん増えてきたので、少し切って束にしてあちこちに置いてみた。
調べてみるとスーパーサファイアブルーという品種らしい。日本の風土に合うように品種改良された育てやすいラベンダーだ。花のみかけはちょっとイカツクて、「ラベンダー」という響きとはうらはらなゲジゲジした感じだし、香りもやや繊細さに欠けるかもしれない。
実は花が可憐で、繊細で香り高いラベンダーの株もあったのだが、細々と生きながらえている風なのだ。子孫を増やすなんてとんでもない、自分たちが生き延びるのがやっと、といった感じなのだ。美人薄命なのである。
ところで70年代の少年少女にSFの洗礼を授けたのが、NHKの少年ドラマシリーズである。その記念すべき第1回目が筒井康隆原作『時をかける少女』をドラマ化した『タイムトラベラー』だった。
この『タイムトラベラー』では、ヒロインの芳山和子が理科室で不思議な薬品の匂いをかぎ、気を失うというのが導入部分だ。このときの匂いが、ラベンダーの香りなのである。
たぶんこの日、この番組を見た日本中の少年少女は「ラベンダーって何?」と一斉に思ったのではないか? それともラベンダーが花の名前であることさえ知らなかったのは、田舎の子どもだけだったのだろうか? ともかく、この聞いたことの無い不思議な響きの単語「ラベンダー」は、私の記憶にものすごいインパクトを残したのだった。
この物語は何度もリメイクされている。ラベンダーが枕に入れるポプリや、お部屋の香りスプレーや、トイレの芳香剤で、すっかりポピュラーな香りになってしまっている時代の人たちには、もはや「ラベンダー」で引っかかる事はないのかもしれないのだけれど。
だから「ラベンダーの香り」は、いまだに私にとっては『タイムトラベラー』(『時をかける少女』)の物語に直結する。そして頭の片隅では、いまでもちょっとは「ラベンダーの香りをかぐとタイムワープしちゃうかも?」と、思ったりもしているのである。