残暑の決闘
以前の記事「紙魚子の小部屋」は下のリンク集から読めます。
1週間ほど前の話である。台風まっさかりの残暑。残暑といえば西友だ。
売り場の列の端に貼られた西友の販促ポスターは、レトロな色彩で怪しいアロハのオトコが幻想の大声で囁きかけるー「エブリデー 安いザンショ!」と。
そのオトコ、トニー谷。
そのポスターは、マラカスのように両手に一本ずつ棒つきアイスをもったトニー谷だった。ポスターの前には幼稚園くらいの男子が、黙して立っていた。ポスターを穴のあくほど見つめている。漂う緊張感。真昼の決闘だ。
ほどなく少し離れた場所にいる母親にきこえるように、大声でいった。
「いっぺんにふたつもアイスたべたら、ポンポン痛(いた)なるよ〜!」
幼いながらも品行方正でスクエアな男子は、トニーを糾弾したのち、母の元へ駆けて行った。西友は知らないうちに、一方的な敗北を喫していたのだった。