其一の正体
そしてやっと鈴木其一展へ(笑)
3回の展示替えがあった大回顧展で、すでに晩年の作品に移っていた。其一以外にも、お弟子さんの作品が多くある。
鈴木其一(1796~1858)は江戸後期に、江戸琳派の優美な画風を基盤にしながら斬新で独創的な作品を描いた人。単なる画家なだけではなく、商品として売れるものは何か?ということも考えていたマルチクリエイターみたいな人だったような気がする。
其一は江戸琳派を開いた酒井抱一(1761~1828)の一番弟子で、いわば江戸琳派という工房の、腕利きの人気職人といった地位にあったらしい。師に忠実に、優美で繊細で風情のある江戸琳派を築いたが、師・酒井抱一の没後は、さらにダイナミックで自由放逸な画風になったらしい。
「月次絵」(つきなみえ)という一群の展示がある一部屋があった。「月次絵」というのは、十二の月を象徴する花鳥や景物、行事などを描いた作品だ。いかにも日本人好みのテーマに、日本人好みの美しく繊細な絵柄をのせるとは、クリエイターというより、商売人の発想でもある。グッズを1セット12個にできるって、1セット売れてもデカイじゃないですか。
12の月に因み、扇や短冊、画帖などの小画面に12図セットで描いた作品を、其一は多数残しています。それらの各画面は季節の情緒に満ち、華麗で多彩な表 情をみせています。おそらくは豪商らの贈答品として制作されたと考えられます。12図通しでも、各月ごとでも楽しめる其一の月次絵は、特別に誂えられた豪 華なダイアリーのように持ち主の傍らで愛されたことでしょう。(細見美術館HPより)
もちろん其一は、「シーズンもの」にも目配りしている。
節句の掛物「節句掛(せっくがけ)」は多くの画家にとっていわば季節商品だったが、其一は新春、雛や端午の節句掛、ひいては羽子板や凧までも美しく整えた。それらは大名や豪商の贈答品として多くの需要を得たようである。
また、其一は節句掛に「描表装(かきびょうそう)」を起用し、さらに草花図や物語絵、歌仙絵へと展開していく。「描表装」とは、本絵の周囲の表装部分まで絵画として描く趣向だ。絵表具・画表具ともいう。ここでは其一の柔軟な発想と遊び心を、たっぷりと感じることが出来る。その趣向は鑑賞者に二重の楽しみを提供するだけでなく、現代にも通じる其一デザインの魅力に溢れている。
そんな鈴木其一の絵を見て、驚いたこと。「めちゃめちゃうまいやん!!」というのは、予想通りだったのだが、それ以上に「線」があまりにも自信満々なのだ! 彼の頭の中に思い描いていた設計図どおりの、太さ、勢い、表情の線が、実際にドンピシャに描かれている、ように感じた。間近で見て、ハッとするほどに、自信満々さに溢れかえっていた線。
ええっ!? これって・・・どこかで「お馴染み」の感じだ。ええっと?
そうそう! 思い出した! 怪人二十面相やん!!
鈴木さんの絵は、もちろん繊細で風情があり、優美なのだけど、すごく怜悧で自信満々なのだ。画面構成なども晩年になるほど斬新で、「どやどや!?」 という(江戸っ子ですが)自己顕示の姿勢がにゅっと顔をのぞかせたりしている。それは、ちょっと微笑ましい少年らしさでもあり、ちょっと冷やっとする彼の「闇」の部分も垣間見えるものだったり。そのなんともいえないニュアンスが、どこか怪人二十面相をふと思い起こさせるのだ。
ばっちり構図の計算できて、計算通りの筆運びができて、「めちゃめちゃうまいわ!」と本当にびっくり するんだけど、「どやどや!?」が、ポーカーフェイスながら見え隠れするのが、ちょっと可笑しい。
「おれさまは、世間をあっといわせたいのだ」といわんばかりの表現方法も、ね。