ダメンズ父、運命の扉を開く
今朝もやってくれました、『カーネーション』。
だいたい小林薫(・糸子の父)が露出度多し、となると、がぜん画面から目が離せなくなる。目の演技だけでもどんだけバリエーションあるの〜??といいたい。うつろな目も、アブナい目も、おたおたした目も、必死な目も、とにかくなんでも絶妙な繊細さでばっちり演じてくれるのだ。
パッチ屋の親方に「(もし糸ちゃんがわしの娘なら)さっさと店まかせますな〜。その方がよっぽど儲かりますわ」という絶賛を聞いたときの、小林・父の和らぐ表情。それは娘を褒められたうれしさと共に、泣いて悲しむ娘をどうしたものかと(もちろん自分のせいなんだけど)悩む心から、解決を見いだして解放されたからかも。しかも一家を支える経済的な負担からも解放されたからかも。
もともと小林・父は、ああみえて(少なくとも岸和田の人間の中では)繊細で、文化的で教養を大事にする人だ。娘を女学校にやり、「勉強や。仕事にいくんちゃう、勉強しにいくんや」と説教し、自らは謡をものしており、上物の着物に関する商品知識はたぶん豊富で、だからこそ若くして大店の番頭だったのでは。半面、インテリの常として「金」にまつわるあれこれ(集金とか)は苦手。
そして笑えるほど「弱い犬ほどよく吠える」を絵に描いたような、ダイナミックな性格的強弱の付け方は、感動的。小林・父が、木之元電器屋の主人に根岸先生の居場所を聞くシーンが素晴らしくて、何度も見てしまった。(同様にラストちかくも一瞬も目が離せなかった)
電器屋の木之元さんは丁度ラジオを聞いているところで、それもベートーベンの『運命』だったりする。最初は朗らかなメロディラインなのだが、ラストに小林・父が怒鳴るところに低い音階で、有名な「ジャ ジャ ジャ ジャーン〜♪」がかぶってくるのが、実によく計算されてお見事だった。音楽と会話のかぶりかたが、最初から最後まで、笑えるくらいのマッチングだ。劇中音楽とはいえ、ベートーベンを聞きながら笑うことって初めてかも。