心憎いやりくち!
もう小林薫さんの「善作おとうちゃん」が見られないのかと思うと、寂しい限り。
お骨になって我家に戻った「おとうちゃん」と、横からタックルのように奪い取った白い箱を抱きしめ号泣する「おかあちゃん」。全力でお葬式を出す糸子は、いかに「おとうちゃん」が世間で優しいひとだったかを、しみじみと知る、という回だった。
ここで、一回限りでは?と思われた神宮司さんのお嬢さんが、弔問に来る。おとうちゃんが「あの、ごっついべっぴんさんの」と形容した、ジャイ子のようなお嬢さんだ。神宮司さんが娘の嫁入り支度を注文した際に、一度だけ登場された。
「小原のおっちゃんには、子どものときから『べっぴんさん』『べっぴんさん』ていうてもろて、『お世辞に決まってる』って子供心に思っていてもうれしいて、おっちゃんが来るのが楽しみやった」と、お嬢さんは糸子に語るのだ。
困っている人には親身に世話をし、お得意さんの子どもにだって心をかけていたおとうちゃんの優しさが立ち現れてくる。神宮司さんのお嬢さんの、ぴかぴかの二度目の登板だ。
場面は前後するけど、「チチキトク」の電報を受けた雨の夜の次の場面では、白い雲の浮かぶ青空。その端の方に、鳶が一羽とんできて、すぐもう一羽が画面に入り、仲良く輪を描く。
これは以前、弱り切って疥癬になった「お父ちゃん」をリヤカーで遠くの病院まで通院するとき、「お父ちゃん」がリヤカーでみていた親子の鳶だ。
付き添っていた糸子は、どんなことをしても直しちゃる! もとのやかましい元気なお父ちゃんにしちゃる!と心の中で決意していた。そのときは鳶の絵はなく、ただ糸子が口で説明するだけだった。
それが何の説明もなく今回の場面に挟まれ、しかも鳶は画面の端っこでちいさく映っているだけだ。
小憎らしいくらいの映像と構成・・・泣けます。
あ、電器屋の木之元の「なんかこわい」雰囲気の奥さんが、今回出色。彼女は無愛想でしゃべるのが苦手で、いつもひねた目をしているつっけんどんな人だ。出番はあるのにセリフが極端に少ないこのお方が、私は妙に気になって注目していたのだ。今回、彼女はその「武器」を存分に発揮した(笑)
お葬式の手伝いにきた小原家に陰口をたたくおばはんたちに対抗し、隣の木岡履物店のおばさんとタッグを組み対決する。「なんかこわい」雰囲気といつも以上の切れ味鋭い三白眼で、容赦ない。恐ろしげな咳払い以外は無言だが、その無言とおおげさすぎる雌豹のような身のこなしが大迫力だ。西村亜矢子さん(木之元節子さんでない素のときには、けっこう美人さんなのに)、素晴らしい(笑)