ム印、神出鬼没!
「一寸先は闇」、という諺がある。「人生、なにがあるかわからない」というコトバもある。「事実は小説よりも奇なり」と、イギリスの詩人、バイロンも書いている。
そういえば、「人生には三つの坂がある」、という有名な人生訓だってあるな。上り坂、下り坂、まさか。
そんな「まさか」の出会い頭な事件が、休日の朝食の支度をする、のんびりした時間の真っ最中に勃発した。
そうなのだ、平和は無惨に破られて、ム印との衝撃的な出会いの朝となったのだ。
都会の人にはありえないだろうが、床の隅をくねくねと這っていたとか、布団の中で夜這をかけたとか、階段で寝そべっていたとか、そういう事例は毎年ある。それなら納得できる。
だが今回は違う。まるでカフカだ。不条理の極み。初めての事例だが、たぶん空前絶後だ。今後出没事例とするには不適切すぎる場所から出現したのだ。
私は遅い朝食準備をしていたが、おばあちゃん以外は、みなさん遅い起床なので、マイペースであれこれ楽しく準備をしていた。ほとんど気分は鼻歌まじりだ。
冷蔵庫からレタスを取り出した。H氏が先日、彼の通勤途中にある畑の主で、いつしか知り合いとなり農業の教えを乞うている先達からいただいたレタスだ。大きいサニーレタスだったが、もう本日で終了というくらい芯にちかかった。
一枚ベリッとはがす。そしてもう一枚。そこで声もなくフリーズした。冷蔵庫で凍えきり、身を固くしているム印がレタスにしがみついていたのだ。
しばしのフリーズの後、動かないのを見届け、そっとまな板に置き、包丁でまっぷたつに。
ところが! まっぷたつの上半身が、足を踏ん張り、普通に!!ごそごそと逃げ出すではないか! 「おまえはすでに死んでいるっ!」といいたいが、もしかしたらヤツはプラナリアの様にまっぷたつなんて、細胞分裂みたいなもんで平チャラなのかも! わけがわからない生き物だ! やっぱり妖怪なんて目じゃない、とんでもないエイリアンだ。
その後はまな板の上で、声なき阿鼻叫喚が繰り広げられるも、なんとか三角コーナーに落とし込み、熱湯でやっと息の根を止めることが出来た。
レタスやキャベツや白菜にナメクジは、仕方がないと思う。それは、いやいやながらも諦める。しかしム印は即時却下だ。そんな地雷は遠慮申し上げる。
とはいえシーズンは開幕したばかり。常に臨戦態勢だ。ポットには熱湯を。ペットボトルには水を満タンに。打倒、ム印。