メルヘンだけどしたたか
『ゲゲゲの女房』の夫婦像は、ありえないほどメルヘンだけど、かたや、ありえないほど強靭でしたたかだ。というか、強靭でしたたかだからこそ、メルヘンを醸せるというか。
渾身の漫画『カッパの三平』の原稿が、出版社の倒産とともに紛失した絶望感も、貸本専門の出版社に売り込みにまわったあげく、さんざんな嫌がらせともとれる物言いに耐えまくる屈辱感も、茂は家庭に持ち帰らない。帰途にきちんと心の整理をして、何事も無いかのように飄々と、淡々と布美枝に向きあう。
それでもツマにこころないことを言ってしまったり、怒鳴ってしまったりすることもあるのだが、そのフォローや謝罪の仕方も心憎いばかりに個性的かつ、誠心誠意だ。こんな風にされたら、もう許さざるを得ませんよね(笑)
家出(?)したツマを迎えに行って、バナナをお土産(しかもむき出し!)にするところなんか、「おおお〜水木しげるワールドや!」ってなもんだったし、ふたりでブランコに乗って、和解の会話をした後、土産のうち2本ちょろまかした(!)バナナを食べるなんて、やっぱりメルヘンだし。
でも観たい映画は絶対譲らない所は、やっぱりマイウェイ水木しげるだなぁ(笑)
そういえば5月29日の東京新聞web版で、『ゲゲゲの女房』の記事があり、ペリー荻野さんがコメントしていたのが興味深かった。
「このところ“自分探し”的な、目標が定まらない若いヒロインが続いていたが、希望をコツコツ積み重ねていく夫婦もいいなって思える。今の若い人って野望を抱かないでしょ。時代のスロー願望に合ってますね」
「バブルの時なら、貧乏くさい話だと思ったはず。みんな疲れちゃったんでしょうね、自分の中の野心に。だから、地に足が着いてて誰も偉そうなことを言わないこのドラマが共感を集めるんでしょう」
う〜ん、なるほど。
そういえば、みうらじゅん師も数年前から「自分なくし」を提唱していたもんなあ。『さよなら私』という近著もあるし。これは読まなきゃ。