冷蔵庫
『俳句歳時記 夏』をときどき思い出したように読んでいる。どこから読んでもいいし、一区切りが短いので隙間時間に読むにはもってこいの本だ。
最近読んだところでは、『冷蔵庫』のカテゴリーが面白かった。冷蔵庫は主婦の力強いお友達である。おおむね女性と冷蔵庫は、がっちりタッグを組んでいるように思う。もっともサラ・パレツキーの小説に登場する女探偵、V.I.ウォーショースキーは、意見を異にするだろうけれど。
子どもだって夏の冷蔵庫はアイスと冷たい飲み物を求めるオアシスである。H氏などはなんと、自分用の冷蔵庫を持っている。冷たい麦茶の他には、冷えたビールがずらりと並んでいる。この小型冷蔵庫は、彼の甥っ子が大学生で下宿していたときに使用していたのを貰い受けたのだ。
ところで、冷蔵庫という季語を入れて男性が俳句を詠むと、突如として「彼」が矮小に見えてしまうのは、なぜだろう? こんな感じなのだ↓
妻留守の冷蔵庫さて何も無し 岡本圭岳
書き置きのメモにて開く冷蔵庫 右城暮石
冷蔵庫ひらく妻子のものばかり 辻田克巳
冷蔵庫と「彼」は普段疎遠な間柄だから、冷蔵庫の方でも「彼」には冷たく当たってしまうのかもしれない。やはり「日頃のお付き合い」というのが、いざというとき、ものをいうのである。いざというときに、悲しい思いや、悔しい思いをしないよう、意識して冷蔵庫とお付き合いするべきなのだ。
『ゲゲゲ』に登場する水木しげるの母は、しょっちゅう周囲の人たちを叱り飛ばしているので、子ども達から「イカル」と呼ばれているけれど、もしも夫を残して自分が旅立ってしまうことがあっても、夫がちゃんと日々冷蔵庫ともお付き合いしているようなら大丈夫、と夫を家事全般ができるよう、ガミガミと教育している賢い人でもある。しかもそのために自分がとんでもない悪妻に思われようと「へいっちゃら」なのだ。人目なんて、はなっから気にしない、カッコイイひとなのである。
そして『冷蔵庫』の句で、唯一女性の吉屋信子は、さすがに堂々たるものである。
金塊のごとくバタあり冷蔵庫 吉屋信子