江戸の敵は長崎で
先日、何回目かの洗濯物を干していると、つけっぱなしのラジオから鮮烈に懐かしい音楽が流れてきた。ジョンだ! ジョン・デンバーだ。ラジオで彼の小特集をして、久しぶりに数曲聞くことができた。
まるで10代に舞い戻って、心がきらきらして、山からの風が吹き抜けるようだった。
私たちの世代でジョンといえば、ほとんどはビートルズのジョン・レノンなのだが、私はひたすらジョン・デンバーだった。他にもエルトン・ジョンとかオリビア・ニュートン・ジョンとかいるけどね。
いまから思えば、ほとんど信仰のようだった。
中学生から高校生にかけて、毎日ジョンのレコードを聴いていた。お年玉などでまとまったお金がはいってくるかして、2500円たまったら、草津の西友のレコード売り場に行っては、レコードを買っていたのだ。狂信に近い信仰(いや狂信そのものかも!)なので、ほとんどの彼のレコードは持っていた。
彼に関する情報は集めまくり、音楽雑誌にあったポートレイトのページを切り取って、透明でファイル状になっている下敷きに入れて大切にしていた。彼に関する記事が有るというだけで、『メンズクラブ』みたいな男性雑誌も買っていた。十字屋で見つけた英文の薄い冊子やギターの楽譜まで買ったりした(結局ギターは弾けなかったけど)。ほとんど精神的ストーカーのようだった。
彼が来日したときには、ほんとに武道館まで行きたくて行きたくて、どんなにほぞを噛んだことか。さすがに高校生の当時は、東京までひとりで行くのはムリだった。大学生だったらまた話は違っていただろうけど。
そんなふうに、私の10代の時代は、ジョン・デンバーに捧げられていたのである。
ただし彼が全てではなく、他にも熱狂していたものたち、人たちはたくさんいた。そんなプリズムのように分散した若いエネルギーは、残念ながら勉強方面には発揮されず仕舞だったのである(実のところ、そんなに残念には思っていない。好きなことをするのが一番身につくというのは、Tくんが証明している)。
で、私がジョンの歌声に打ち震えた日は、奇しくもKちゃんが彼女の最愛の福山雅治さんのコンサートに初めて行った日なのだった。
最初、彼女は行くかどうしようか迷っていたのだが、「高校生がコンサートくらい行かなくてどうする!」と喝を入れたのが私である。彼女は見たことも無いほどゴキゲンで帰宅した。
そして私は、江戸の敵を長崎でうった気分なのだった。