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紙魚子の小部屋 パート2 plus はてな版 (2009年9月〜)

平凡な主婦の日常と非日常なおでかけ記録、テレビやラジオや読書の感想文、家族のスクープなどを書いています。

紙魚子(しみこ)のおでかけのあれこれ、ユニークな家族、節操のない読書、テレビやラジオの感想、お買い物などを書いています。

『毎日が夏休み』感想

以前の記事「紙魚子の小部屋」は下のリンク集から読めます。

 原作は1990年に出た、大島弓子先生の同名コミック。コミックは短編で、私は赤木かん子さんが大絶賛していたので読んでみた。もう、えらく感動した。そして20年過ぎた今、見たいみたいと思っていた映画化されたそれを初めて観た。

 ほんとのことを言えば、このビデオは持っている。格安で購入したのだ。それくらい好きだったにも関わらず、見ないうちにビデオデッキが壊れてしまった。たぶん、原作を損なっていたらやだな〜という不安があったのだろう。観たのは最悪のコンディションだったのに、見終わってからの方が、どんどん感動が深まって行く。なんなんだ、これは。

 一流企業の出世街道邁進中であるエリート社員の義父・成雪さんは、会社と方針が合わないという理由で突然辞職する。主人公のスギナは、イジメで名門女子中学を登校拒否中の中学生。もっとも彼女は明るくクールなので、朝も「今日も元気に登校拒否だ!」とお弁当を持ち、制服姿でくったくなく出かけていた。(それに母はダマされていたわけだが)

 結局ふたりは「おかあさん」に自分たちのドロップアウトな立場を報告することによって、現実を直視し、次なるステップに進むことになる。

 つまり「いい会社」って? 「いい学校」って?という問題提起がまずある訳で。

 ところが「いい会社」も「いい学校」も、どこかが腐っちゃってた訳で。まずはそこからドロップアウトすることが必要だったりもする訳で。

 今さらながらだけど、2011年の夏にこれを観てしまうと、忸怩たる思い。20年も前になんとかしなきゃいけないのがわかっていたのに、そのときには現実を直視すらしなかったなんてね。腐敗の次は崩壊しかなかったのに。

 ドラマに戻って。

 しかもこの日まで、この義父と娘はほとんど口をきいていない。その日の朝だって、言うに事欠いて義父はスギナに「元気か?」と訊くのだ。そして娘は「元気です、お父さん」と答えていた。義理の父ではあるけれど、あまりに他人行儀。だからプラスアルファ、「家族」って?という疑問符。

 実はスギナの両親である夫婦はバツイチ同士で、コンピューターによるベストの組み合わせをはじきだされて結婚したのだった。それはもしかすると、離婚による恋愛結婚への絶望と、感情の封印につながっているのかも。

 感情の封印といえば、義父の成雪さんは、「感情なんてあると不自由で不便だ。(それに不幸になる)。仕事がスムーズにはかどらない。(それに恋愛が苦しくなり過ぎる)。」というような意味のことを言っていた。(カッコ内は単なる私の想像)

 たしかに「ある種の」仕事に人間らしい感情なんてない方が、テキパキさっさと仕事がはかどるだろう。それを私たちは今回、いやというほど見せられた。

 義父が逆境の中で、心を奮わせて感動する場面があるのだけれど、そこでの成雪さんのセリフ。

「どんどん小さくなる。どんどん謙虚になる自分を感じる。感謝と畏れと情愛を感じる」

 感謝と畏れと情愛! ほどんど心の三位一体要素じゃないですか。このセリフのあとの場面がものすごくいいのだけど、それはぜひ画面(およびマンガ)にて。

 逆に後にとんでもないシチュエーションで、彼は過去の激しい感情を取り戻すのだけど(映画版)、激しい感情は命取りにさえなりかねないほどキケンでもある、ということも丁寧に描かれている。

 義父と娘は結局ふたりで「なんでも屋」を始める。知っている限りの知人にダイレクトメールを送り、めでたく初仕事を得るのだが、一日目は義父の惨敗に終わった。有能で優秀な仕事人間の義父も、家事にはまるで無知だったのだ。どん底の父をいたわるスギナのセリフが泣かせる。

 「お義父さん 夏の陽ざしにできる影って濃くて深いよね。人生も濃くて深い影があればその裏には かがやくまぶしい光がぜったいある! ぜったいにあるんだよ お義父さん」

「そのとおりだ、スギナ。そのかがやくまぶしい光を見つけに 我々はでかけるんだ」

 「われわれ」は出かける。スクラップ家族が、一カ所、繋がった。

 このあと、しがらみや誤解や憎しみやプライドを乗り越えて、人々がやさしく繋がっていく。これをメルヘンだとか夢物語だとか少女まんが的展開だとかいうなかれ。しがらみや誤解や憎しみを乗り越えるために、彼らは命懸けで困難なハードルを乗り越えたのだから。

 それは「ひとつになる」とか「一丸となる」みたいな画一的で居心地の悪い言葉じゃなく、ひとりずつ確実に繋がって行くという幸福が描かれている。このふたつは、まるで違うから。

 今回マンガを読み直して、成雪さんの言葉の中で、ジョン・ラスキンという人が提唱した「仕事に喜びをみいだすために必要な三つの要素」を知った↓

・適性がなければならない

・やりすぎてはならない

・そして達成感がなくてはならない

 「やりすぎてはならない」っていうのが、すごく新鮮。しかも「そうそう、わかるわかる」!! ちなみにラスキンの言葉で「生命以外に富はない」というのもあるので、日本の上の方の人たちに、ぜひ贈りたい。

 ところで『夏休み』ってなんだろう。

 スギナのモノローグによれば

計画する

実行する

失敗する

出会う

知る

発見する

冒険とスリル

自由とよろこび

 そう。こんな人生を生きないうちは、まだまだ死ぬ訳にはいかない。と日付的には、現実の夏休みが終わったとたんにキモに命じたりしているところだ。さぁ、「かがやくまぶしい光」を見つけなきゃね。