アウトレット・デビュー
Kちゃんが学園内中学校の入試で、休校だったので、竜王アウトレットに行きたい、とのたまわった。よし、連れて行ってやろうじゃないの。
彼女は何回もバスに乗って行っているが、私は初めて。アウトレット・デビューである。このときには、高級ブランドが割引されて販売されている場所、そして割引されていてさえ、手の出ない商品が並ぶ場所という認識しかなかったのだが・・・。
ブランドにも化粧にも興味はないが、オシャレやお洋服には多少の興味を持っているKちゃんは、アウトレット大好きであるので、トラノマキを伝授してくれる。
「オープン前に行き、オープン時に入り、混み合ってくるお昼前に出るべし」
「一巡して価格と品物をひととおり見てから購入すべし」
「親切な販売スタッフさんを発見したら、コーディネートその他、商品購入後に必要な知識を伝授してもらうべし」
最初に入った「なんたらパレス」というお店は、それはステキなお洋服や小物だらけだったが、半額でも1万5千円の値札がついている。それは予算をはるかに超越している。最低でも5千円で、それはそれはステキなショールだったのだが。「ここで買ったら、それでおしまいやな」。
来たばっかりなのに、早速ゲームオーバーにするわけにはいかない。危ない危ない。トラノマキどおりにアウトレットを一巡しなければ。さすがは、「パレス」を名乗るだけのことはある。こうして庶民はいきなり涙をのむのであった。
それでも存分にいいものをみられ、眼福、眼福。Kちゃんも、「ひとりでは入りづらいお店で、眼の保養ができた〜!」と喜んでいた。
彼女によれば、「1階は高級なお店ばっかりやし」ということで、2階のみを回れば事足りるということだ。店の表をざっとみれば、どういうテイストかはわかるので、実際足を踏み入れるお店は、7軒くらいだったか。
なかでもKちゃんのお気に入りのお店があって、そのショウウインドウに、スーモとまっくろくろすけを足したような、ヘンなキャラがギターを弾いているイラストが、バーンと描かれたフード付きトレーナーがあり、ふたりで盛り上がる。
「こんなキャラクター、めったにいーひんで!」
「描いた人はきっと、『こんなん、どこのだれが買うんや〜』って思いながら描いたんやろな。『買うヤツ、いるんか〜?』って。
ここにいるわ〜!」
「いや〜、これ、ぜったい、Kちゃん、似合うで〜♪ このキャラを着こなせる人は、そういーひんで!」
私は以前、「しまむら」で買ったブラウスに合いそうなスカートを見つけ、なおかつスタッフさんにアドバイスをいただいた。
高校生のお小遣いでも何着かは買えそうなリーズナブルさの上、そこそこにかわいい物があるお店で、スタッフさんも親切だった。私の一番のお気に入りは、ビートルズのアビーロードをシルエットにした長袖Tシャツだったが、サイズが合わず、泣く泣く見送る。
Kちゃんは、昨年履き潰したのでサンダルを買い、私はこの冬ほぼ全滅した厚手靴下を買う。その他、保護者として学校に着ていけそうなブラウスとかも購入。
アウトレットを見くびっていたことを、反省する。
まさか、無印があるとは。そして思い切ったプライスダウンをしているとは。
まさか、ABCマートも真っ青な割引で、靴たちが勢揃いしているとは。
そして、なにより!
おしゃれを凝らした女性たちが、満を持して繰り出す場所かと思っていたけど、意外にスーパーマーケット感覚で来ている、隙だらけの(というより無頓着な)オジさんオバさんをしょっちゅう見かけるとは。なにより彼らには、大変、勇気づけられたのである。
そうだ、スーパーに行くように、アウトレットに行ってもいいんだ!
帰宅に向かうアウトレット内で、「なんたらパレス」の前を再び通りかかった。
「ああ、もし将来、おかーさんが、お金持ちになったら、ここで服買うことにするわ!」とうっとりすると、すかさず「なに夢みてるの!」と娘にツッコまれる母なのであった。