怒濤のラスト
今回のツアーのテーマである「涅槃図」鑑賞予定が、まさかの時間切れになってしまった。正直、時間のことなんか、まるで念頭になかった。ひたすら、その場その場を丁寧に味わった結果なので、私は自業自得だが、相棒のれんくみさんには、たいへん申し訳ないことをしてしまった。
それでも泉涌寺に向かう。涅槃図は4時まででも、お寺自体は4時半までのオープンだから、他に見られるものはあるはず。そう、泉涌寺といえば、美しい観音様がいらっしゃる。その美しさから、玄宗皇帝が亡き楊貴妃の冥福を祈って造顕された像との伝承を生み、楊貴妃観音と呼ばれて来た仏像だ。
いそげ、急げ。
しかし、観音堂の前には、団体さんがいて、私たちの行く手を阻んでいた。
・・・んん? このスピーカーを持っているお兄さんは・・・小嶋先生!? またしても合流してしまった。
そして今後の彼らの予定としては、楊貴妃観音像を見た後、横手の宝物館である「心照殿」に行かれるようだ。
彼らよりいち早く、お堂で観音様を拝ませていただくが、夕方でもあり、曇ってきたせいもありで、お顔はよく見えない。残念。
おまけに授与品を販売する方が、お客さんに対してあまりにつっけんどんな態度なので、実のところ、心中大いに毒づいていましたよ。
確かに天皇家とも深い繋がりのあるだけに「御寺(みてら)と呼ばれる格式高い寺院なのはわかる。わかるが役人でさえ「お客様は神様です」なサービスをしている時代に、あんまりな態度じゃないか。
とはいえ宝物館に滑り込み、ほどなくやって来た団体さんたちに混じって、室町時代に描かれた、土佐国綱兄弟筆になる涅槃図を、小嶋先生の解説付きで見ることができ、たいへんラッキーだった。
これは日本最大といわれる涅槃会で公開されるものとは違うけれど、彩色がきれいに残っていて、それなりに見応えはある。先生は、満月や、沙羅双樹の半分の木が花を咲かせ、あと半分が枯れている様子や、摩耶夫人(お釈迦様の生みの母親)が雲に乗ってやってくる様子なども、浮き浮きと解説されていらっしゃった。
いままで、漫然と見ていた涅槃図が、ちょっとした説明が加わっただけで、突如シャープに、かつ、もっと興味深いものにみえてくるから、不思議だ。
心照殿を出て、れんくみさんと「せっかく来たのだし、仏殿にもいってみよう!」と、未練たらたらで(笑)、涅槃図の展示会場である仏殿に向かった。
そしたら! あるじゃないですか、涅槃図!
かたづけモードに入っている係の方達だったが、さすがに高さ約15m、幅約7mもある涅槃図は、おいそれとは片付けられないだろう。
東福寺の繊細な涅槃図とは違い、人物などの輪郭が太いので、逆にとても見やすい。愛嬌のある涅槃図だ。
未練たらたら、大いに結構! 人間、あきらめないのも肝要だ。しぶといことは、いいことだ。1年待たなくて済んで、本当に安堵した。
これさえみたら、もういいだろう。時間も押しているし、帰ろう、帰ろう。
ということで、おわりよければ、すべてよし! 気分よく帰途に向かい、無事終了した『龍と涅槃図ツアー』だったのでした。