等伯の涅槃図
本法寺の涅槃会館の続き。
涅槃会館は、本法寺の宝物が展示され、「巴の庭」という静寂で明るいお庭がある宝物殿だ。
涅槃会館の吹き抜け部分がある奥の部屋に、等伯の涅槃図があった。1Fからは下の部分が間近で見られ、2Fに上がって上半分がしっかり見られるという、タテ10m、ヨコ6mという巨大涅槃図を見るには、サービス満点の展示方法だ。もちろん1Fからも全体像は、しっかりと見ることができる。
もしかしたら昨年の等伯展でも、展示されていたのかもしれない。残念ながら、覚えていない。
でもやはり涅槃図は涅槃会でバーンと期間限定で公開される、というのがいいなあ。等伯というブランドではなく、仏教行事という意味合いで見る方が、「涅槃図みました!」という実感がありあり。
ちなみに公開期間は涅槃会にあたる、3月15日から4月15日までの1ヶ月間と割合長期。ただし入館料は千円と、お高い。
でも、ここでは係の方が、とてもわかりやすい説明をしてくださったので、涅槃図にたいする理解がグッと深まった。
たとえば左から2本目の沙羅双樹の枝に架かっている袋物について。
天部の人となったブッダの亡くなった母、摩耶夫人が、息子の重病を知り、薬を届けようとするが妨害に遇い、仕方なくブッダのいる場所に袋を投げた。ところが、袋は枝にひっかかってしまう。ブッダのところへ袋を届けようとネズミが木に登ったが、不運にも猫に食われてしまったので、袋は木の枝にひっかかったまま、という伝説があるとか。だから、涅槃図には敵役の猫は、描かれない、とか。もっとも、等伯の涅槃図には猫がいたが。
また、この涅槃図には、当時日本にはいなかったコリー犬が描かれているとか。ときは桃山時代。まだ南蛮人たちが日本と貿易をしていた頃なので、象や駱駝など、南蛮渡来の珍しい生き物なども、等伯はみたことがあるのかもしれない。
涅槃図では、一番わかりやすい人物は誰でしょう?
それは、十大弟子のひとり、超イケメン、かつ、お釈迦様の話をもっとも多く聞いた人として有名なアーナンダ。彼は、悲しみのあまり気絶してしまうから。
そんな人としては情があるけど、佛弟子としてはどうか?なアーナンダを介抱?して顔に水をかけているのは、やはり十大弟子のひとりアヌルダ尊者=阿那律尊者(あなりつそんじゃ)。彼は冷静に事態を受け止めている唯一の人物で、涅槃の意味を完全に理解し、お釈迦様の葬儀を営んだ中心人物だ。
でも一番の見どころは、あふれる悲しみ。
等伯は、優秀な後継ぎとして期待をこめていた息子・久蔵の急逝にあう。息子を失った悲しみと、後継者を失った苦しみを同時に味わうことになった。息子・久蔵の菩提を弔うために悲しみを乗り越えて完成したのが、この涅槃図なのだ。絵の中の、向かって左端の緑の衣の人物が、等伯本人ではないかとも言われている。絵の中には、等伯の味わった死別の悲しみとともに、祈りや救いも描かれているようで、静かな感動がある。
涅槃会館には他に、本阿弥光悦作の翁面もあり、これも神性を感じさせる完璧な逸品だった。
その後、過去、現在、未来を表しているという、やはり本阿弥光悦作「巴の庭」を書院の縁側からみる。ほぼ独り占め状態でゆっくりとくつろいだ。
庭の奥にあった淡いピンクの椿が可憐。
写真は撮れなかったが、赤い侘助にウグイス?が蜜をついばみにきていた。