西瓜売ります。
近江八幡市の大中は琵琶湖を埋め立てた干拓地で、私が子どもの時から「大中の西瓜」はブランドだった。
いや、ブランドというより、夏の風物詩といった方が近い。
軽トラに西瓜を山積みして、私の住んでいた市の端っこの山麓の村までやってきてくれた。まだスーパーマーケットもほとんどなかった頃の西瓜販売車は、安くはなかった大きな重い西瓜をさらに買いやすくした。それを井戸で冷やして食べるのが、40年前の夏だった。
「大中の西瓜の販売です」とスピーカーで流しながら、ゆっくりと走る西瓜の軽トラを、単なるヤジ馬で追いかけるエキサイトした子どもたち、という風景も大人からみれば夏の風物詩だったかもしれない。
そんなことを思い出したのは、先週の休日にH氏が「ネットで鮎の美味しい店見つけたし、長浜までいこ。鮎の刺身も食べられるみたいやで、あんた、鮎好きやし」といつものように、突如言い出したからだ。
私は鮎が大好きだが、唯一同好の家族のTくんがいなくなり、一人分では晩ご飯に鮎というのも面倒で、ほとんどスーパーで買わなくなった。おことばに甘え、即決で連れて行ってもらうことにした。
湖岸沿いの道に出るまでに大中を通る。大中では倉庫のような直売店があちこちにあり、西瓜はもちろんトマトやトウモロコシなども販売している。
大中の入口の交差点横の空き地で、H氏は思わぬものを発見した。西瓜の軽トラ販売だ。それも売り歩くのではなく、じっと客を待つタイプのものだ。
「なんか、さびしそう・・・」と感想をもらすH氏のみたものとは。
炎天下なので軽トラの横に日除けの簾を立てかけ、屋根にビニールシートをかけ、荷台には巨大な西瓜がゴロゴロと山積みだ。その日陰の中で、地味な中年女性が雑誌を眺めていた。
売る気、0.00%!?
一応「西瓜売ってますので、よろしく」的な販促のぼりと、ぶら下げられ、たまさか風に揺れる西瓜模様のビーチボールが、かろうじて控えめに通行人の目を誘うのみだ。
こんな絶好の被写体を、カメラを探している内に、信号が青に変わってしまい、撮り逃がしてしまった。残念!!
かわりにスケッチした↓
ところで、わざわざ遠路はるばる長浜まで行った鮎専門店「鮎茶屋かわせ」だが。
「いらっしゃいませ、ご予約はどのようになっておりますか?」
と、受付の女性に問わる。1時間前くらいに思いついて出かけたから、もちろんアポ無しだ。「少々お待ちください」と奥に入った女性は、「すみません、予約で一杯で申し訳ありませんが」という結末になった。
駐車場の車はナンバープレートをみると、県外から来ているひとたちが多かったので、嫌な予感はしていたのだ。そのまま、すごすごと家に帰ることにする。こういうところでケンカにもならず、「ずちなし」とあっさり諦めるところが、気分よく生活する秘訣なのかもしれない、とたった今、気づいた。(おそい!)
帰りの大中では、ちゃんとカメラをスタンバイしていたので、なんとか西瓜販売車を記録することができた。
驚くべきは、あれだけ山積みされていた西瓜が、あれだけ売る気が見えなかったにも関わらず、少なくとも山積み状態ではなくなっていることだった。ちゃんと売れていたのだ。
そして私もこれを書いている途中に初めて、「あ、帰りに西瓜、買えばよかった!!」と気づいたのだった。(おそすぎる!!)