拝啓天皇陛下様
先週の金曜日にBSプレミアムで『拝啓天皇陛下様』という映画をみた。なんとなくピンときたのだ。これはみなくちゃと。
1963年に公開された古い映画である。
漢字がほとんど読めず、カタカナしか書けない純朴な男、山田正助ことヤマショウが、兵役義務により新兵となる。彼の戦友であり良き理解者でもあるインテリ棟本博(戦時中は従軍作家となり成功する)は若き日の長門裕之が演じている。彼らの数度の空白期間を挟みながらの、長年にわたる友情を軸に構成されている、戦前から戦後の物語だ。
戦争ものともいえるのだが、二年兵が新兵いじめをするという場面もあるのだが、不思議に陰惨ではない。むしろ当時の農村の地獄のような環境に比べたら、メシは喰えるし風呂にも入れるし「極楽」とうれしそうに言うヤマショウの言葉に、「そういうこともあったのか」と知見を広げた。
演習を見に来られた「天皇陛下様」のご尊顔を拝して、「なんて優しそうなお方だろう」と感激し、ヤマショウは一気に「天皇陛下様」を大好きになってしまう。イデオロギーは皆無。
同様に、加藤嘉さん演じる中隊長が、陛下の御前での演習という、あまりの光栄にハッスルするのが可愛く可笑しい。彼はヤマショウが農村出身で、地獄のような育ちをし前科もあり、字も書けないことを知るや、涙を流した。なんとかしたいと思ったのだろう、新兵で元教師の垣内二等兵に、ヤマショウへの読み書きを命じる。とても情に厚い中隊長なのだ! 加藤さんもすごくよかった。
垣内を演じるのは、なんと藤山寛美だ。渥美清と藤山寛美のツーショットが見られるなんて!!
他にも一瞬だけどホンモノの山下清画伯も登場していた。若くきれいな左幸子、桂小金治も出ていて、たいへん懐かしかった。
軍隊の日常生活で吹かれる軍隊(信号)ラッパに、歌詞のテロップ(?)が入るのも面白かった。そうそう、ラッパのマークの正露丸のCMメロディーも軍隊ラッパのひとつだった。
とにかくピュアなヤマショウが泣ける。でも可笑しい。寅さんの映画は1本もみていないが、寅さんの原点をみたような気がする。いわゆる社会派っぽさが前面に出た映画ではなく、とてもやさしく可笑しくほろ苦く切ない、そんな映画。間違いなく名作。
監督は野村芳太郎さん。映画の後の山本晋也カントクの解説によれば、野村監督は山田洋次監督の師匠だったとか。渥美清が受け継がれたんだなあ。