ケーブルにて
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比叡山、延暦寺への、日本一なケーブルの旅が始まる。このケーブルは80年の歴史を持ち、2025mを11分で結ぶ。
ケーブルだが、さすが日本一を誇るだけのことはあり、途中駅が2カ所ある。そのひとつ、山下にある「ほうらい駅」すぐ隣には、工事中に発掘された石仏が一カ所に集められており、「霊窟の石仏」(蓬莱丘地蔵尊)と呼ばれている。この石仏は、織田信長の比叡山焼き討ちの際に犠牲になった人々の霊を慰めるため、土地の人々が多くの石仏を刻み、死者の冥福を祈ったものらしい。
「霊窟の石仏」は車内からも見えるが、この場所に次のケーブルが来るまでの30分間、ひとりで佇むのは、ほとんど罰ゲームか肝試しだ。
もうひとつ、山上にある「もたて山駅」には、歌人であり『土佐日記』の作者として有名な紀貫之の墳墓がある。彼はこの地から見える琵琶湖の風景をこよなく愛し、この地に眠ることを願っていたという。紀貫之ファン、もしくは古典や和歌に傾倒している人なら、この場所に30分ひとり残されても持つかもしれない。紀貫之が愛した琵琶湖の絶景も観られるし。
どちらの駅も、予めの申告や駅に設置の電話からの連絡のあった時だけ停車し、通常は通過する駅員無配置駅だ。
階段状になったシートが「登山電車」気分を盛り上げる。山頂に火口はないが、自然に『フニクリフニクラ』が脳内で流れる。
子どものようにワクワクして、最後尾(階段シートの一番下)に座る。流れ去る風景が、パノラマワイドに観られるからだ。
とはいえ、写真は上の一枚きり。以下は帰りの電車で撮ったもの。
深山幽谷を地でいく風景に目を奪われる、視界が開けると、目前には琵琶湖が広がる。 ときどきトンネルも出現し、どきどき。
小さく細く眼下にみえる滝は「蟻が滝」という。
この滝には、最澄にまつわる伝説がある。坂本ケーブルのHPより引用↓
ここで、一呑みせんとする大蛇に出くわした伝教大師最澄。伝教大師がよく諭すと大蛇は、突然大蟻に変身して滝壺に姿を消しました。その後、この滝は「蟻が滝」と呼ばれるようになりました。
線路の両側には、カントリーなベニヤ板や木彫りの動物たちが、ときおり出現し、車内の人たちを心和ませてくれる。ウサギ、シカ、サル、イノシシ、クマ、キツネなどなど。
それにしても坂本ケーブルスタッフの手作りなホスピタリティはスゴイ。こんなキケンな場所に、ディスプレイのためだけにウッデイな動物たちを設置するなんて。
石仏、古の歌人、そしてメルヘンと、バラエティに富む道中だ。
丁度道中の真ん中あたりで、一本だった線路が二手に分かれて上がりと下りの車両がすれ違う地点、「ターンアウト」がある。となりの線路で猛スピードで回る滑車をみる。まさにケーブルの醍醐味だ。