寒さ厳しき折
こうして楽しい11分の旅は終わり、日本一のケーブルは終着駅に到着した。
いよいよ比叡山! そして延暦寺! と気分は盛り上がるかと思いきや・・・。
寒い!
天気予報の予想を裏切り、下界は穏やかな陽気だったが、さすがに修行の山だ。厳しく冷たい空気が顔をこわばらせる。
上り道には、溶け残った雪が道端を白く縁取っている。アスファルトで溶けて流れたらしい水は凍り付いている。片側は山際だが、もう一方は柵が無い崖っぷちなので、道の真ん中か山側を歩かないと。
「ほんま、真夏とか真冬とかに来て。もっとええ時期に来んかい!」と自分に突っ込むH氏は、せっかく来た比叡山に出ばなをくじかれるくらい、凍えている。
自業自得。
しかも彼は、ケーブルが出て行ったばかりの時間に駅に到着したとき、何と言ったか。
「運賃高いし、待ち時間長いし、歩いて延暦寺まで行けへんかな〜」
行けるか〜!!
2千メートルの、しかも険しい道を、こんな軽装で行けると思ってるのか〜! どんだけ無謀なんや! 冗談でなかったのが、逆に笑える。
「歩いてこんと、よかったやろ!」とケーブル降りる時に、一応突っ込んどいた。
上り坂なのに、息があがるだけでカラダが温まる事もなく、すっかり凍えて延暦寺境内にたどり着いたので、お寺に直行する気分ではない。
「なんか、あったかいもんお腹に入れんと・・・」。空腹と寒さに遭難すれすれみたいな顔をして、すっかり弱気になっているH氏だ。
丁度お昼時だ。H氏は山頂のお食事処にまったく期待していなかったが、これだけの観光地でもあるのだから、平均点くらいのお食事処はあるはず。
ほどなく総合案内所に無料休憩所が併設されている建物「一隅を照らす会館」があり、そこの地下にお蕎麦屋さんを発見! それも坂本の有名店「鶴喜そば」!
助かった〜!と私以上に喜んだのはH氏だろう。「H喜そば」だね。
学食のように食券を買い、厨房内のおばちゃんに渡し、しばし席に座って、そば定食を待つ間、窓からの展望を楽しむ。建物的には地下なのに、展望ができるなんて、ちょっと不思議。
番号を呼ばれ、心躍らせつつお盆を受け取り、学生のように昼食をがっつく夫婦。すっかり温まった上、お蕎麦も炊き込みご飯も美味しく、参拝準備が整いました〜!とばかりに立ち上がる。