9月になれば、彼女は。
今の大学生は、昔の大学生とは比較しようもないほど、様々な機会を与えられている。「インターンシップ」とか「交換授業」とかを、子ども達の世代のありようで知った次第である。
今夏、Kちゃんが他大学で行われる演劇のワークショップ形式の授業を登録していたのに、学祭委員会の仕事が寝る間もない程押し寄せたあげく大きな会議が入ったため、泣く泣くスルーしてしまったのを、私も本人も残念がっていた。
あの天性のパフォーマンスをどこかで発揮してほしいと心から思っているのに、中学を卒業してからは、そんな機会にもほとんど恵まれていない。あえていえば、高2生のときの公募であった、滋賀県民コラボの吉本新喜劇の舞台くらいである。
しかし、彼女は思わぬ授業を選択していた。
なんと「都の西北」で、数日間、連続講義を受講するというのだ。東京の宿泊施設の押さえにくさを知らなかった彼女は「9月やから・・・」と甘く見ていたが、「すぐさま押さえないと!」とつついて、なんとかセーフで7月下旬に確保できた。
「それで何の授業やの?」と訊いてみたところ、思わぬ答えが返ってきた。
「アイヌ語。面白そうやったし」
「アイヌ語!?」
まず、「おうむ返し」とはこのことだったのか、と痛感した。おうむ返しする以外、言うべき言葉がみつからなかったのだ。わざわざ東京まで、しかも泊まりがけで行って、アイヌ語ですか?
でもよく考えたらアイヌ語なんて、この後の人生では、そうそう学べないだろう。しかも口承で語り継がれるもので文字標記はなかったはず。しかもたった今調べてみたところ、2009年、ユネスコにより「危機に瀕する言語」として、最高ランクの「極めて深刻」の区分に分類されているらしい。
とはいえ数日の勉強では、「アイヌ語入門」のとば口くらいがやっとだろう。それでも「アイヌ語」の知識以外に、絶滅が危惧される言語や人種について、いくばくかの思いを馳せて、なんらかのインパクトをうけて帰還してくれることを願っている。「面白そうやったし」という、ライトな動機であったとしてもね。