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紙魚子の小部屋 パート2 plus はてな版 (2009年9月〜)

平凡な主婦の日常と非日常なおでかけ記録、テレビやラジオや読書の感想文、家族のスクープなどを書いています。

紙魚子(しみこ)のおでかけのあれこれ、ユニークな家族、節操のない読書、テレビやラジオの感想、お買い物などを書いています。

原発に一番近い駅

以前の記事「紙魚子の小部屋」は下のリンク集から読めます。

 金曜日の深夜、NHK総合で放映される『ドキュメント72時間』を録画して、ときにはリアルタイムで観ている。72時間、つまり3日間の定点観測。

 その場所に来る、ごく普通の人たちにインタビューするという番組だが、「ごく普通の人たち」は、なかなかにドラマチック。ハッピーな人、重荷を背負っている人、心ならずも涙を見せる人、投げやりな人、何も考えてない(?)人など、実に様々。饒舌な人もいれば、寡黙で訥々と語る人、ハッキリ取材拒否する人も。しかし、何も考えてない(かのような)人ですら、去り際にぽつりとホンネを洩らしたりして、侮りがたい。

 都会の動物病院という、いかにもドラマチックな(実際、動物好きの人なら、涙無くしては観られなかったかも)場のときもあるし、コインランドリーやガソリンスタンド、ひとりカラオケといった日常生活の場のときもある。意外に日常生活の中で、ディープな物語を持つ人や深い話を語る人に出会ったりもする。

 かと思ったら、鳥取砂丘の回のときには、若者達のグループのひとりが、広大な砂丘のどこかに携帯を落としていて、みんなで探しまわっている、というインタビューのあと、あきらめかけた頃(そして、番組の時間も終盤に差し掛かっていた頃)、ついに見つかって、グループのみんなが大喜び大会で終わったことも。

 前回は、事故を起こした原発から20キロ圏内にある福島・楢葉町にある常磐線竜田駅が舞台。タイトルは「夏・原発に一番近い駅」。

 この回は定点観測の枠をゆるくして、駅から降りた人だけでなく、一般の人が盗難予防のため、パトロールしている人の車に乗せてもらったり、一時帰宅した人のお家にうかがったりと、食いつき方がヘビーだった。

 その分、他の時間帯の番組のインタビューとは、ずいぶん印象を異にした。明るい希望を持って帰れる日を待ちのぞみ、帰った時にすぐちゃんと暮らせるよう整備をしつづけるおじさん。

 かたや帰宅は絶望的と判断し、むしろ家族一緒に暮らすため、他の土地でやり直そうとする魚屋のおじいちゃん。いまは店の中はからっぽ。「ここで店はできないよ。だって、客がいないからさ」。

 はたまた突き抜けたような笑顔で「この年で、どこにいくの? どこにもいけないよ!」と絶望的な受け答えをするおっちゃん。まったくばらばらだ。

 一時帰宅のとき、お気に入りの洋服を取りに来たおばちゃんの家には、空き巣が祝儀袋の中身を確認したらしく、テーブルに袋を残してあった。そのときにはまだ笑顔で、前にも泥棒に入られて盗られました、といっていたおばちゃんも、箪笥の底の目的の洋服も持ち去られていて、肩を落とされていた。

 盗難防止のため、巡回していたおじさんが、奥さんの話を涙ながらに。「あの日以来、体調を崩して・・・毎日目から涙をぽたぽたぽたぽた落として・・・60歳になったからって、厚生年金の手続きしに行ったばかりだったのに・・・突然・・・まだ60だからね、あの事故さえなければ、もっともっと長生きしていただろうに。」「いつも出かけるとき、仏壇に手をあわせて話しかけるんだけど、返事してくれないんだ。当たり前だけど、返事してくれないのは・・・(涙)」 「つまらない話をしちゃったね。こんな話するつもりはなかったのに、胸にいつもずーっとあるから」と言葉を詰まらせていらした。

 そんな深刻な番組の中で、笑顔で軽やかに駅から出て来た若い女性が、とおくに離れても、スタッフさんたちに手を振っていた爽やかな映像もある。

 パトロールの途中、暗闇の高台で歌う巨漢の男が現れる。登場はまるで不審者だが、「これ不意打ちですよ、まいったなあ〜」と明るく困惑する男に事情を聞いてみると、「今日は日曜日なので、賛美歌を歌っているんです」。いつもこの場所で日曜日には、賛美歌を歌っているそうだ。かつては家々の灯がたくさん見えた高台から今は、遠くのさみしいほどの灯りしかみえない。眼下には、津波も来たらしい。

 それでも、にこやかにパトロールの男性とスタッフを乗せた車を見送る巨漢の男は、暗闇に舞い降りた天使のようだった。パトロールの男性が、思わず問わず語りをしてしまったのは、もしかしたら彼のせいかもしれない。

 個人と向き合って話を聴くという力には、激しく心を揺さぶられます。月曜日に再放送があるので、興味のある方は、是非。

 放映時間は以下のとおり↓

毎週金曜 午後10時55分〜11時20分(一部の地域を除く)

毎週月曜 午後4時05分〜4時30分(再)

毎週金曜 午前11時05分〜11時30分(再)(一部の地域を除く)

 来週も濃そうな予告編でした↓

 「原爆ドームの見える岸辺で」。 おなじみの平和式典の舞台裏、アウトサイドが垣間みられます。