『セロニアス・モンクのいた風景』
先日地元の本屋さんへ行ったとき、平積みで、しかも1冊しか無かった単行本を即買いした。
2千円以上だったから、普段なら保留して、まず図書館で借りて中身を確認の後、注文買いというのが私の一般的な流れであるのに。めったにないことだが、タイトルだけで有頂天というか。あの、セロニアス・モンクに関するものなら、買わなきゃダメでしょ、というか。
しかし、よくこんなマイナー路線の本が出たもんだと思ったが、なるほど村上春樹さんの訳と編集なんだ。ナットク。もちろん村上春樹さんもモンクのファンであり、彼の書いたものの中にも、モンクの音楽は何度か出て来る。
タイトルは『セロニアス・モンクのいた風景』。セロニアス・モンクのピアノは一度耳にしたら誰でもビックリするだろう。そして次の瞬間には、魅了されるか、罵倒するかどちらか、というくらい評価がわかれる人かもしれない。褒めるにしてもけなすにしても、まずこう思うだろう。
「この調子っぱずれなピアノはなんだ??」と。
私も初めてH氏に聞かせてもらったときには驚いた。やはり「なに、この躓きっぱなしなピアノは??」という衝撃。
なのに、この「静かなファンキー」と「お茶目な誠実さ」は、一体なに? この不思議な心地よさの正体って?
(カバーを取ったら、こんなイラストが↑)
村上春樹さんは、かつて「ポートレイト・イン・ジャズ」という本を出された。和田誠さんとのコンビを組み、ジャズ・ミュージシャンの肖像画に彼らへのオマージュに満ちたエッセイを付けたものだ。その中にも、当然モンクについて書かれていた。「謎の男」というタイトルである。そのエッセイも、ご自身の思い出を加筆されて、この本の最初に掲載されていた。ついでに私も遥か昔、ブログでそのページについて感想を書いている。
まださほど読んでないので感想は書けないが、村上春樹さんの「あとがき」が感動的なので紹介する。この本のカバー絵についてである。
村上さんは、最初、この本の表紙は安西水丸さんに描いてもらうつもりだった。しかしご存知のとおり、水丸さんは今年3月に逝去されてしまった。表紙が描かれること無く。
彼が水丸さんに表紙を依頼されたとき、水丸さんはニューヨークのジャズクラブで、モンクそのひとに会ったことがある、という話をされた。
最前列で聞いていた水丸さんにモンクが煙草をねだったので、ハイライトを1本進呈し、火も付けてあげた。モンクは「うん、うまい」と言っていた、という話だ。
水丸さんがずっと以前に描かれたモンクの後ろ姿のスケッチが見つかったので、村上春樹さんは、共通の友人である和田誠さんにそれを生かした表紙を描いてくれないかと依頼した。和田さんは快諾し、表紙が完成した。
モンクにハイライトを差し出す水丸氏。裏表紙には、水丸さんのスケッチが使われた。セロニアス・モンクのファンのみならず、安西水丸さんを愛していた人々にも、じんとくる本なのである。
もしかしたら水丸氏は天国で、モンクにハイライトを差し出しているのかもしれない。