聴竹居 客間
応接間というと、ソファのセットやシャンデリアや高級洋酒のボトルが飾られた飾り棚のある、家の中でもゴージャスな部屋を思い浮かべてしまう。
私の子どもの頃はちょうど高度経済成長のまっただ中だったので、応接間をつくるのが大流行りだった。そのときの必須アイテムが上記のものたちだったのだ。まだその頃は乙女心も若干あった小学生の私は、レースのカーテンをカラダに巻き付けて纏ったり(ジュディ・オングの「魅せられて」か!?笑)、シャンデリアの「水晶もどき」が欲しくて、はずせないものかと見上げたり、洋酒の味を想像したりしていた。わざわざ応接間でソファに沈み込みつつ、ゴージャスな気分で(笑)読書するのも好きだった。
しかし聴竹居の客間は、いたってシンプルである。たしかに時代は違うが、シャンデリアもソファも高級洋酒の棚もない。彼は本物の大金持ちだったから、そんな小細工や見得とは無縁だったのである。というか、そういう憧れ自体を持っていなかった。彼の美意識は、そういうものとは無縁なのだ。
(パンフレットより)
広い床の間の上にあるのは、ピラミッド型の照明だ。ほんのりとした灯りは、壁を抜いてある裏側の床の間も照らす仕組みになっている。まさにピラミッドパワーなアイディアだ。
床柱は煤竹で、隣の仕切りにも細い竹が数本配置されている。
窓際の作り付けの長椅子は、電車のロングシートのようで、懐かしさも漂っている。ちょっとチャイニーズテイストの窓枠もお洒落。天井は杉網代で、中央の照明の幅の部分には、杉板が嵌め込まれている。
中央の椅子は、台座の奥行きが広くなっている。これは当時まだ和服が主流だったので、帯のお太鼓部分の厚みも計算に入れた奥行きなのだ。肘掛けは短く、袖が引っかからないようにという配慮である。テーブルの天板はゆるやかな糸巻き型になっており、足の出し入れがしやすくなっている。これは現代でも欲しいアイテムだ。
ちなみに藤井さんは美意識の塊なので、家具も食器もご自分でデザインされている。細部まで家中に、統一感を持たせたかったようである。手前にあるのは、すでに現役は引退しているけど、蓄音機だ。音楽でお客様をおもてなしする、というのが、彼の趣味だったのかもしれない。
居心地はいいけど、寛ぎすぎないような「お客様用」の部屋になっている。私が藤井家の娘でも、この客間へわざわざ読書しに行く、という気にはならないだろう。それぞれの部屋の用途というものが、見事に部屋の空気感となっているからだ。