珈琲神社 その2
再度、部屋に目を戻すと、奥にぎっしりと本が詰まった本棚があったので、職業柄つい見に行ってしまうのだった。
!? この棚のほとんどが珈琲に関する本だった!! 喫茶店、店舗、経営、珈琲そのものについても、もちろん。別の場所には雑誌「カフェ&レストラン」のBNも、どっさり山積みされていたので、珈琲へののめり込み方はただならないものがある。
セルフビルドの本もあったから、もしかするとご自分で作られた家屋かもしれない。コーヒーカップがずらっと壁面に並んでいたりもしたので、食器から手づくりされている可能性も否定できない。
一部、花森安治さんの本など背骨をただすような本たちに混じって、ちょっと色っぽい本(エロ本にあらず・笑)も少し。ああ〜、いいバランスだ。ほどよい自然派、楽しむ自給自足派、こだわりはものすごいけど、決して人には押し付けない、どころか逆手にとって「まずい珈琲」とうそぶいているという、鋭いバランス感覚がみてとれる。すごいな、マスター。もちろん、珈琲はまずいわけがない。
ここで珈琲だけではもったいなく、さりとてゴハンを食べると帰り道が暗くなってしまうので、ミニ(メニューには「おためし」と書かれていた)ソフトクリームを注文する。ちなみに250円だ。
ソフトクリームを運んでくださったマスターが、トッピングのいちじくを指して、「すみません、ほとんどカラスにやられちゃって、ちいさいんですが・・・」。
一口食べて、比喩でなくリアルにのけぞった。「なんじゃこりゃ〜!!?」と叫ぶジーパン刑事こと松田優作のように、心で絶叫する。
美味し過ぎる!!! 信じがたい美味しさだ! ひとくち食べるごとに、身体反応としてのけぞってしまう。 おお、神よ!と反射的に思ってしまうのは、やはり「珈琲神社」だからなのか。ソフトクリームは勿論だが、その底に潜んでいた桃やバナナなどのフルーツも、ひんやり、なんともほんのりした甘さで、歯ごたえも心地よかった。
そろそろ暮れなずんで来たデッキに再び目をやると、不思議なモノが。
釣り竿? アワビの貝殻がぶら下がっている。
マスターに「あれは、なんのおまじないですか?」と聴くと、ちょっと困ったようなシャイな笑顔で、「ああ、あれはですねえ・・・日の出ているうちには決して口にできないオマジナイです」。
・・・負けました(汗)
「とっても美味しかったです」とお勘定をすると、「そんなこと(おいしい)をいうと百円増しになりますよ〜」と、相変わらずのポーカーフェイスだ。入って来たとき同様、戸口にいる小型犬にけたたましく吠えられながら、大満足で店を出る。マスターがいうには、「まだ帰っちゃダメ」と吠えているらしい。
ああっ、遅ればせながら気づいたが、薪も自給自足だったのか! あのマスターなら、さもありなん。
「景色はおいしいコーヒー屋」。やっと看板に偽りなしの言葉が(笑)
日が暮れて寂しげになった、もと来た道を帰る。
道端には、野の花と林。
「魚付き」なんていうのは、初めて見た。
ホテルに戻ると、薄紅に変わっていく海の景色に間に合った。
せっかくの素泊まりだから、できればあの喫茶店で、タコのピザとか食べてみたかったなあ。
その夜は、ホテルのレストランで静かにお刺身定食を食べ、大浴場と露天風呂で、夜の海を眺めたのでした。露天風呂、たぶん20年ぶりくらいだ。