織物世界を耽溺(素材篇)
「みんぱく」での布物展示を見るのは初めてではない。ずっと前に「大風呂敷展」という企画展にいったことがある。風呂敷といっても、カラダを包む、頭を包むなどといった多方面に渡るアプローチを見せていただいた。もちろん、伝統的な風呂敷の数々も、洒落た柄や、機知に富んだもの、贅の限りを尽くしたもの、商家や婚礼用などを大変楽しく拝見した。
今回の「織物展」は布物だけではなく、織り機もメインになるので、ちょっと私の興味のテリトリーから外れた物もあった。
織り機という道具以前に「からだ機」という、手足、腰などからだの複数の部位を使って、タテ糸の張力とそれを制御するしくみなども、スーモくん(古くはモリゾー)のようなマネキンを使って、立体的、具体的に説明されていた。ただし、残念ながら私の理解や興味は(織りの)過程よりも結果(モノ)に。
しかし、バリエーションに富む素材は、大変興味深く面白かった。織物といっても、布とは限らない。ムシロや籠やザルのようなものも縦横で交差する細長いものなら「織物」の範疇に入っていたからだ。
たとえばアンデルセンの物語に出てきたイラクサ。これがちゃんと糸にされていたんですよねえ! 同行者のれんくみさんと、盛り上がったことといったら(笑)
「ほんまにあったんや!イラクサの糸!(これでチョッキを編んだら悪い魔法がとけるかも!)」でも、たしかイラクサには刺があるから、糸にするまでに手が血だらけになるって書いてあったっけ。糸にするだけでも、大変な苦労が忍ばれる。
それからアイヌの人たちが服やゴザを作る時に利用するのが、ガマとシナノキ。シナノキはベージュでガマは黒いので、ちょっとした模様になる。
アフリカではナツメヤシが活躍し、フィリピンではパイナップルが登場して、固いオーガンジー様の妖精っぽい布に変身していた。日本のもので変わった物はショウガがあり、沖縄特産の絶滅危惧布の超高級品、ちいさな芭蕉布も。
動物性のものだって、なかなかのラインナップだ。
お馴染みの蚕繭だが、変わり種の高級種「クリキュラ」の繭を初めて見た。これについてすでにご存知だったれんくみさんにレクチャーをうける。クリキュラは繭の時から金色で、これを糸にして織ると金の布ができあがるそうだ。
イランやイスラム圏では駱駝毛を利用するらしいので、「駱駝のパッチって、もしかしてキャメルの純毛だからあたたかい?」と冗談を言ったり。
日本にもすごいのがあった。山での遭遇が恐れられているツキノワグマだ。でもどのようにして、何にするのかは展示されてなくて不明。
それから日本でもとれるタイラギ(カラス貝のでかい版。高級料亭で出される刺身や寿司ネタになる美味な貝で、超高級品)という貝がある。しかしこれのどれが糸に??
帰宅後調べると、貝の中に「足糸」という細く黒い繊維の束があり、これを洗って処理すると美しい糸になるらしい。西洋で手袋(貴婦人用?)などに製品化されていたとか。という説明は、現地で欲しかった!
しかし一番の驚愕原料は、カナダのヤマアラシだ!それも針毛!? なぜ??
これも帰宅後調べてみたら、北米ネイティブアメリカンの人たちが、白人との交易でビーズを入手する以前には、ヤマアラシの針毛を染色して装飾品にしていたらしい。これはクイル細工といって、ラコタ・ビーズ・クラフトの原型ということだ。装飾品とはいっても、現地の人たちにとっては神聖侵すべからずなものなので、相当の覚悟を持って身につけるのが礼儀だという。軽々しく身につけることは許されない。
ということも、できれば展示品のところで説明がほしいところ。というか、これが織物??の原料というのが、そもそもすでに怪しい。