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紙魚子の小部屋 パート2 plus はてな版 (2009年9月〜)

平凡な主婦の日常と非日常なおでかけ記録、テレビやラジオや読書の感想文、家族のスクープなどを書いています。

紙魚子(しみこ)のおでかけのあれこれ、ユニークな家族、節操のない読書、テレビやラジオの感想、お買い物などを書いています。

曲者は京狩野派の草分け

以前の記事「紙魚子の小部屋」は下のリンク集から読めます。

 まずはこの展覧会の基本的知識として、本流「江戸狩野」とは別に「京狩野」という派の源流が、山楽とその弟子であり娘婿の山雪だったことを押さえておきたい。

 京博のHPより

 桃山から江戸への過渡期。それは豊臣につくか徳川につくかで後の人生が大きく変わる時代。武将だけでなく、狩野派の絵師たちもまたその渦中で運命を大きく左右されました。

 徳川幕府御用絵師となり軽淡な画風を開拓した狩野家本流「江戸狩野」と、京の地にとどまり永徳の弟子筋によって独自の画風を確立する「京狩野」の誕生です。

 本展は狩野永徳の画風を受け継ぎ、見事なまでに昇華させた京狩野草創期に焦点をあて、初代山楽、二代山雪の生涯と画業を辿る初の大回顧展です。波瀾の時代に生き、窮地に追いやられながらも、絵師としての気概を持って運命に立ち向かった2人の魅力あふれる絵画世界を、重要文化財13件、新発見9件、初公開6件を含む83件の作品によりご紹介いたします。

 激動の時代に生きたもう一つの狩野派の物語がここからはじまります。

 秀吉お気に入りの絵師だった山楽は、関ヶ原後「豊臣残党狩り」の中、命を狙われながらも生きながらえ、京に留まって狩野派の絵師として山雪につなぎ、山雪は江戸とはひと味ちがう、ユニークな「京狩野」を成立させたのだ。これが伊藤若冲曾我蕭白につながっていく、重要なエポックとなっている。

 私が仄聞にして知らなかっただけで、狩野山雪の絵はみたことあった。

 たとえば「寒山拾得図」。水墨の禅画では好まれるテーマだ。京都の寺院、真正極楽寺真如堂)の宝物だけど、大きな画面で、寒山拾得コンビのアップがグロテスクだ。こんなインパクトのある絵は、そうそう忘れない。

 かと思えば金箔をバックに太い幹がうねる「老梅図襖絵」は、ダイナミック。身悶えするような幹は、「山雪の心の闇を表しているのでは・・・」とキャプションにあったが、たしかに見たことの無い激しさで、アップダウンする幹だった。大迫力。

 こんな大胆な画を描くかと思えば、一転、「長恨歌画巻」は超微細にわたる「仕事きっちり!」な絵巻物。ほんと、どうやって描いたんやろ?と不思議なくらい、点のような梅に、きれいに花びら5枚描かれてある。色も、布の裏からも彩色してあるという手の入れよう。絵巻物というと和風なイメージだけど、中国の物語であるせいか、コスモポリタンなテイストすら感じさせる。

 ああそうそう、仙人を描いたものもあって、その中でもきっと山雪さんお気に入りだったろうと思われるのが「蝦蟇(がま)仙人」。頭にガマを乗せたり、ゼニ(と蝦蟇のエサ?)をくくりつけた紐に蝦蟇をじゃれさせて遊んだりしながら、いつもニヤニヤ笑っているヘンな仙人だ。たぶん山雪さんは、彼にシンパシー感じていたのでは?

 名前に雪とつくだけあり、山雪さんの雪景色は秀逸。しかも雪のふんわり感がやさしい。こんな風に枝とかに雪って積もるよなあ・・・と、やっと終わった冬を思い出したりして。

 私が好きだったのは、動物のとぼけた表情や、キュートな存在感。水墨画のテナガザルは、おしなべて可愛いんだけど、この「猿猴図」のテナガザルは、ほとんどファンシーなキャラクター! Tシャツやクリアファイルなどに施され、ミュージアムショップのグッズとして大人気だった。もちろん私も絵葉書買いました!

 テナガザルの他にも、トボケた表情で首をかしげるフクロウや、ひそかに悪党面の水鳥も、お気に入り。

 カッコイイところを見せなければいけないはずの竜虎図で、「ちょい、タンマや!」とばかりに、龍を上目遣いにしつつ、ぴちゃぴちゃ水を飲む虎(水墨画)や、両前足を揃えて龍を振り返り様見やる、お行儀のいい虎(金屏風)とか。 龍目線でみたら「おのれ〜! おちょくっとんのけ〜?」ではないのか? わくわくする。

 「雪汀水禽図屏風」の金と銀、水鳥たちの斬新でデザイン性のある構図も素敵だし、長大な「蘭亭曲水図屏風」は物語性と遊び心のある「曲水の宴」で、じっくりと楽しめた。

 歌を詠もうと呻吟するおじさんたちがお尻にしいている敷物も、虎や熊(もしくはタヌキ?)の毛皮や布物、柄物、植物素材の簾みたいなものと、バラエティに富んでいる。

 お酒は蛇行する河の水面、蓮の葉の上に置いてある。お酒のお世話係は子どもたちなんだけど、なんと余ったお酒を、はしゃいだ笑顔で盗み飲み! いいのか? とゆーか、それはまさかのバイト代なのか? 酒は飲み放題ってか? 「日本全国酒呑み音頭」状態なのか? お酒は二十歳からじゃないのか? この絵みていたじーさんも憤慨していたぞ!

 それから面白かったのは、「狩野派の秘伝書」も展示してあったこと。人物の顔の描き分けや、木の種類に寄る幹の肌合いの違いの描き分け方が、懇切丁寧に図と言葉で説明してある。いわゆる「あなたも狩野派の絵がかける!」というレベルの高いハウツーものだ。

 というふうに、まさかの2時間鑑賞だったのだが、ネットを見たら3時間鑑賞の方もおられたので、私は素直に敗北を認めたのだった。いってみれば、それほどに魅力的な展覧会ということなのかもしれない。

 そしてさらに、私はこの会場で、まったく新しい視点からの鑑賞方法を発見したのだが、それについては、また。 

「特別展覧会 狩野山楽・山雪」は、 京都国立博物館のみ。巡回しません。5月12日までです。