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紙魚子の小部屋 パート2 plus はてな版 (2009年9月〜)

平凡な主婦の日常と非日常なおでかけ記録、テレビやラジオや読書の感想文、家族のスクープなどを書いています。

紙魚子(しみこ)のおでかけのあれこれ、ユニークな家族、節操のない読書、テレビやラジオの感想、お買い物などを書いています。

山下清展 放浪編

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山下清という名前を知ったのはいつだったろうか?

 新聞を読むようになった子どもの頃だから10歳くらいか。芦屋雁之助版/山下清役のドラマ「裸の大将放浪記」をテレビで見たのが先だったか、新聞で彼の豪華本の広告がしつこいくらい何度も掲載されていて、「高っけえ〜!!」と驚愕したのが先だったか。

 テレビドラマでは「裸の大将」というタイトルになっているが、実際にはちゃんと着物を着て、今ならさしずめ「一澤帆布ブランドのリュック」といっても違和感のないようなしっかりしたリュックと、レトロな(当時はニューモデルかもしれないが)水筒を持って、線路沿いを放浪したという。子どもの頃、広告の中に山下清の筆跡で文章も乗っていて、「線路沿いを歩けば、行きたい場所にいける」というのを読んで、「かしこいひとだなあ〜」と感心したのを覚えている。

 施設を脱走して、放浪の旅を始めた直接のきっかけは、徴兵検査が恐ろしかったから。もし甲種合格だったら、戦争に行ってさんざん殴られ、恐い思いをして、敵の弾に当たって死ぬのがおっかなかったから。この想像力はシンプルだけど、このシンプルさが大切なこと。

 けれど彼は、母親にムリヤリ徴兵検査に連れて行かれてしまった。結果は不合格。それによって兵役免除という皮肉かつラッキーな結末で、再び自由の身になれたのだった。

 もうひとつの理由は、施設にいることが「飽きた」から。ああっ、これ、わかるわ〜!! 季節は巡るし、家にいたってそれなりに自然の変化をダイナミックに見るという感動はあるけれど、いやいや、もっとなんか「わああ〜♡」というものに出会いたいじゃありませんか。

 未知との遭遇。奇妙な物体。へんてこな物件。ひととの出会い。うれしくなる食べ物。彼はアーティストの魂を持っているから、よけい「わああ〜♡」が必要だったはず。

 でも彼は絵のモチーフを探したり、テーマを追求するために放浪の旅をしたかったのではない。実際のところ、ドラマとは違い、彼は放浪している間は絵を描いていない。学園に帰ってから、脳内写真機で撮ったものを現像するかのように、正確にはり絵にしていたという。素晴らしい記憶力の持ち主だったのだ。

 彼が求めたのは、ただの自由な時間。それも、旅人がしがちなガツガツした観光ではなく、なにもしない「ぼやっとする」時間。

 おお〜、なんという贅沢! これって究極の贅沢かもしれない。