十一面観音さまに会いに行く。
ここまで来たからには、渡岸寺観音堂の十一面観音さまにお会いしなくてはね。
私が初めてここに来たのは二十歳そこそこの頃で、雨のうら寂れた田舎のぬかるんだ道をあるいてたどりついた。薄暗いちいさなお堂で、圧倒的な迫力にひれ伏し、思わず大きなポスターまで買ってしまった。
そして30年後。悩み多き青春の日はすでにはるかな過去になり、二人目の子どももまもなく大学生になる予定だ。しかも見事な秋晴れで、村はきれいに整備され、お寺ものどかながら、なんだかずいぶん見栄えがするようだ。
仁王門があったことなど、覚えていなかった。
醍醐寺に行ったとき、いままで見過ごしていた仁王さまの足の表現に感嘆して以来、仁王像の足元も覗き込んで足も激写してみた。力強い!
参道には井上靖の石碑が。
彼の小説「星と祭」に、ここの観音様が登場するそう。井上靖から白洲正子を経てみうらじゅんまで、ファン層が幅広い。
さすがは国宝、しかも観音界ではトップアイドルの十一面観音さまなので、火災や盗難避けのため、別棟の広くきれいな収蔵庫に保管されていた。お一人ではなく、大日如来座像や、もともとは普賢菩薩や文殊菩薩の乗り物だったと伝わる象や獅子がアウトラインを残していた。菩薩様たちは残っていない。
観音様は、参拝者がじっくり観察できるように360度から見ることが出来る。一番の見どころは後側の「暴悪大笑面」なので、あらゆる角度から見なければ、なのだ。ライトもしっかり当たっている。ちょっと明る過ぎるくらい。参拝者には至れリつくせりなのだが、当の観音様にはちょっとダメージが大きいかもしれない。
観音様の説明を聞いた後で、ゆっくり見せていただいた。やはり、すさまじいオーラと、美しさ精緻さだ。
帰りの電車までたっぷり時間はあるので、ゆっくりと見たあとは、のんびり境内散策だ。
萩もきれい。
彼岸花も、そこここに咲いていた。
お堂から山門をみる。静寂とくつろぎ感がいい。聞こえるのは風の音だけ。
境内には遊具もあるが、子どもの姿はない。
山門近くの背の高い松が、秋空の下、風を渡らせていた。
と、ロマンチックな秋の日差しに、微かなメランコリーも感じつつ門をでたら、左手にクローズドのお店があった。
気になるのは、その店名だ。「十一面堂」って。「怪人二十面相」に近似値のようなネーミングでは。・・・一体何を商っているのだろう。非常に気になる。
帰宅後調べたら、(レトロな!?)喫茶店とかお土産物屋さんっぽいけど、「数年前に閉店」という情報が。ちょっと行ってみたかったような、入るのに勇気がいるような。