読書の記憶の箱 その1
きのうは、あまりに寒かったので、靴下を重ね履きした。さらに靴下カバーも。
それを脱ぐ時にふと、昔読んだ本のなかに「重ね履き」する話があったっけ、と思い出す。ええと。
プロイスラーの『小さい魔女』だ。大のお気に入りの、子どもの頃の蔵書だ。何回読んだか分からない。だから文章のリズム感や、イメージや感触まで覚えている。
20歳前後には、偶然テレビで『小さい魔女』のこどもミュージカルみたいなのも見た。美輪明宏さんとかが出演された豪華な舞台だった。主役の「小さい魔女」以外はほぼ女装魔女さんたちで、見事にきらびやかなコメディ。
懐かしさのあまり、話が逸れた。小さい魔女が重ね履きするシーンは、と。結婚してから買い直した蔵書『小さい魔女』で確認してみた。
あった。
「やきグリ売り」と「七まいのスカートより、いいもの」というふたつの小さい章だ。
恐ろしく寒い日に、相棒のカラスのアブラクサスの忠告もきかず、小さい魔女がせいいっぱい厚着をして街に出かけ、そこで親切な焼き栗売りに会い、焼きぐりをもらって「こっそりお礼をする」話と、帰宅後、今日の出来事の報告を聴いたアブラクサスが、小さい魔女に助言をする話。ここで、小さい魔女はスカートを7枚重ね履きするのだ。
どうやって七枚も!?
という疑問は、子どもの時には抱かなかったな、絶対。
いや、そうではなく。
子どもの頃に繰り返し読んだお気に入りの本の記憶が甦った瞬間、それがどれだけ私を温めてくれたか、微笑ませてくれたか、ということなんだけど、う〜ん、うまく説明できないな。
それ自体は「やくにたつ」とか「感動を甦らせる」とかなんら有意義なものはない。だってキーワードは「恐ろしく寒い」と「重ね履き」だ。これでどうやって感動するのだ。
けれど、圧縮冷凍された読書の記憶が瞬間解凍し、一気に地に足がついて根っこをはやしたような安心感というか、温泉三昧のような温かさを、かなりのスケールでもって味わわせてくれたのだ。
とはいえ、たぶん共感してくれる人は、同じ経験をした人だけだな、きっと。恐縮ながら、筆頭は美智子皇后さまかも? 1月早々から、おそれおおいことを申し上げてみました。